- アイディエーションは発散(切り口を広げる)と収束(コンセプトに絞る)の両輪。片方だけでは事業の種は育たない。
- 生成AIが効くのは、発散フェーズの案出しの量と、収束フェーズの評価の観点出し。切り口を変えながら広く出し、決めた評価軸で並べ替える使い方が実務的。
- どのアイデアに賭けるか、どこまでリスクを取るかという最終判断は人が行う。AIは選択肢を増やす道具であり、選ぶ責任は事業の当事者に残る。
アイディエーションで生成AIは何ができるか?(発散→収束)
発散フェーズでは切り口を広げる案出しの量を、収束フェーズでは評価の観点出しを担う。決めるのは人。
「生成AIでアイディエーション」と聞くと、AIに「新規事業のアイデアを出して」と投げれば事業コンセプトが完成すると考えがちです。しかし新規事業のアイディエーションは、実際には性質の異なる二つの作業でできています。一つは発散——顧客・技術・チャネル・課題領域など、切り口を変えながらアイデアの数と幅を広げる作業。もう一つは収束——広げた案を評価軸で並べ、事業コンセプトに絞り込む作業です。生成AIが力を発揮するのはこの両方ですが、担う役割は対照的です。発散では「量」を、収束では「観点」を出す道具として使うと、アイディエーションの前半戦が大きく速くなります。
重要なのは、AIが出す発散の案も収束の評価軸も、あくまでたたき台だという前提です。切り口の広さや評価の切れ味はAIに任せられますが、どの案が自社にとって筋がよいか、どこまでのリスクを取れるかという判断は、事業の当事者にしか下せません。発散と収束それぞれで、AIの役割と人の役割を整理すると次のようになります。
| フェーズ | 生成AIの使い方 | 人の役割 |
|---|---|---|
| 発散(切り口を広げる) | 顧客・技術・チャネル別に案出しの数と幅を広げる | 切り口自体の妥当性を判断し、抜けている視点を補う |
| 収束(コンセプトに絞る) | 評価軸を提案し、案を軸ごとに整理・比較する | 評価軸の重み付けを決め、最終候補を選ぶ |
発散はAIに「広げさせる」、収束はAIに「並べさせる」。どちらのフェーズでも、最後にどのアイデアを残すかは人が決める。この役割分担が、アイディエーションに生成AIを入れる前提になる。
発散:切り口を広げる(手順)
1つの切り口で終わらせず、顧客・技術・チャネルなど複数の切り口を変えながら案の数と幅を広げること。
発散フェーズで陥りやすい失敗は、最初に思いついた切り口だけでアイデアを出し続けてしまうことです。「既存顧客の困りごとから」という一つの切り口だけで20案出しても、似た方向性のアイデアが重複するだけで、事業の種としての幅は広がりません。生成AIを使う利点は、切り口そのものを変える発想を大量に、かつ短時間で試せることです。手順は次の4段階です。
- 切り口を複数用意する。顧客起点、技術起点(社内の技術資産・特許)、チャネル起点、課題領域起点など、性質の異なる切り口を3〜5個決める。
- 切り口ごとに案を広げる。各切り口でAIに案出しをさせ、件数の上限を決めずに幅を優先する。同じ切り口内での重複は許容し、まず量を確保する。
- 案の裏取りをする。有望に見える案ほど、社内データや外部の一次情報で事実関係を確認する。AIが出す市場規模や競合情報は不正確なことがあるため鵜呑みにしない。
- 切り口の抜けを補う。出てきた案を俯瞰し、まだ触れていない切り口(規制・パートナー起点など)がないかを人が判断して追加する。
図:切り口を変えて幅を広げる案出しの例。市場規模や競合情報の数値はAIの概算であり、有望な案ほど社内データや外部の一次情報で裏取りしてから収束フェーズに進めます。
発散フェーズのゴールは「良い1案」を見つけることではなく、収束フェーズで比較に値する選択肢の束を作ることです。ここで幅を絞りすぎると、収束フェーズでの比較そのものが機能しなくなります。新規事業の種そのものを社内データや特許から広く探す方法は探索の記事で扱っているので、発散の材料集めとあわせてご覧ください。
収束:事業コンセプトに絞る
市場性・自社適合・実現性・独自性などの評価軸を先に決め、その軸で発散した案を並べて比較すること。
発散で広げた案の束を前に、勘や声の大きさで絞り込んでしまうと、後から「なぜこの案を選んだのか」を説明できなくなります。収束フェーズで生成AIが効くのは、評価軸を提案し、案をその軸ごとに整理・比較する作業です。代表的な評価軸は市場性・自社適合・実現性・独自性の4つですが、事業のフェーズや業界特性に応じて軸を追加・入れ替えても構いません。重要なのは、評価軸を先に決めてからアイデアを並べる順序です。
| 評価軸 | 見るポイント | AIの使い方 |
|---|---|---|
| 市場性 | 想定市場の大きさと成長性 | 公開情報から市場規模の当たりをつけ、要出典で整理 |
| 自社適合 | 既存の技術・顧客基盤・チャネルとの重なり | 社内資産とのマッチ度を案ごとに言語化 |
| 実現性 | 必要な投資・体制・期間の妥当性 | 実現までの論点・前提条件をチェックリスト化 |
| 独自性 | 競合が容易に模倣できない差別化要素 | 類似の既存事業・サービスとの違いを比較整理 |
4軸で発散案を並べると、次のような比較表ができます。ここでの点数はAIが出す一次評価であり、最終的な重み付けと合否判断は人が行います。
| 事業コンセプト案 | 市場性 | 自社適合 | 実現性 | 独自性 |
|---|---|---|---|---|
| 案A:運用支援の月額サービス化 | 中 | 高 | 高 | 中 |
| 案B:業務データの他業界転用 | 高 | 中 | 低 | 高 |
| 案C:チャネル再活用の周辺商品 | 低 | 高 | 高 | 低 |
比較表の点数はAIが出す一次評価にすぎない。市場性の数値は裏取り前の概算、自社適合や実現性は社内事情を知る人でなければ正しく判定できない。表は「議論の土台」であって「結論」ではない。
この比較表をたたき台に、経営層や事業部が議論する土台ができます。収束の出力をそのまま企画書にせず、絞り込んだコンセプトを仮説として扱い、次の検証フェーズに進めることが重要です。生活者の反応を安価に見積もる方法は検証の記事で扱っています。
人がやるべき判断
どの案に賭けるか、どこまでリスクを取るかという最終判断は、事業の当事者である人が担う。
生成AIは発散の量と収束の観点出しに効くが、「この事業に会社のリソースを投じるべきか」という意思決定はAIの仕事ではない。評価軸の重み付け、社内政治や競合動向を踏まえた判断、そして最終的にどの案を残すかの決定は、事業の当事者にしか下せない。AIが作った比較表を鵜呑みにして機械的に上位案を選ぶことは、収束の意味を失わせる。
アイディエーションにおける生成AIの役割は、発散の幅と収束の観点出しを速くすることに限られます。市場性や自社適合の評価にAIの一次案を使うのは有効ですが、その数値の裏取り、評価軸の重み付け、そして最終的にどの事業コンセプトに賭けるかという判断は、事業開発の担当者と経営層が担う領域です。土台になるのは、社内の技術資産・顧客データ・過去の事業検討をAIが扱える形に整えておくことで、発散の質と収束の説得力の両方が上がります。TechWorkerでは、新規事業の文脈をAIが扱える形に整える生成AI活用の設計支援を行っています。
よくある質問
不要にはなりません。生成AIが効くのは、切り口を広げる発散の「量」と、コンセプトに絞る収束の「観点出し」です。どのアイデアが自社にとって筋がよいか、どこまでリスクを取るかという最終判断は、事業の当事者である人が担います。AIは選択肢を増やす道具であり、選ぶ責任は担当者とチームに残ります。
件数の上限を決めずに、切り口(顧客・技術・チャネル・課題領域など)を変えながら広く出させるのが効果的です。ただし出てきた案の実現可能性や事実関係をAIは保証しません。有望に見える案ほど、社内データや外部情報で裏取りしてから次の収束フェーズに進めてください。
この4軸は出発点として汎用性が高いですが、固定である必要はありません。事業のフェーズや業界特性に応じて、法規制対応や既存アセットとの親和性といった軸を追加・入れ替えるのが実務的です。重要なのは軸を先に決めてからアイデアを並べることで、後出しの評価基準で案を絞ると納得感が失われます。
