社内ルールと安全

生成AI事故対応の机上演習|誤回答・情報漏えい・誤実行を90分で検証する

生成AIのインシデント訓練は、漏えい、誤回答、権限逸脱を会議で追体験します。台本より先に、誰が何を判断し、どの記録を残すかを決めます。

古野光太朗古野光太朗·2026.09.28·最終更新 2026.10.06

主な対象読者情シス・AI導入担当

生成AIから機密情報が漏れた疑いがあるとき、誰が利用を止め、誰が影響を調べるのでしょうか。訓練では、こうした判断を机上で一度たどります。CISAの演習資料にある役割分担を参考に、生成AIを対象とした90分の進行例を示します。

米CISAの演習資料は、担当者の役割を分けている

“roles and responsibilities for exercise planners, facilitators / evaluators, and participants”

生成AIインシデント机上訓練の準備、実施、改善を担当別に示した流れ
自社解説図 米国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(CISA)「CTEP Package Documents」(2023年2月2日改訂、2026年10月6日確認)。TechWorker作成の90分進行例。CISA公式図の転載ではありません。利用条件。画像をクリックすると原寸で開きます。

CISAの原文は、計画者、進行・評価担当、参加者の役割を分けています。続く自社図は役割表ではなく、初報、追加情報、対外説明、再開、振り返りを90分で進める例です。

生成AIの机上訓練では、何を練習しますか?

検知、一次連絡、利用停止、影響確認、対外判断、再開の責任分担を練習します。

CISAのTabletop Exercise Packageが示す計画者、進行役、参加者の役割分担を参照し、生成AI固有の事象へ置き換えます。

生成AI事故の机上演習は、どんな手順で進めますか?

役割を集め、入口を一つに絞り、90分を検知から復旧まで進め、詰まった手順を改善台帳へ移します。

追加情報を出し、停止と再開の判断を試す。本文の判断や記録項目を示します。
TechWorker作成:本文に基づく研修用の設計例。実施結果や効果の実測ではありません。

進行記録は、追加情報を示した時刻、確認できた事実、未確認の項目、停止範囲、判断者、再開前の試験を別欄にします。47件と12件は架空の演習値のまま扱い、実際の事故件数として記録しません。

  1. 参加者を、事故時の役割で集めます。担当者だけでも、経営だけでも、演習は止まります。役割の一覧は、比較表にまとめます。ENISAの2026年版手引きも、演習目的に合う役割と関係者を参加させる考え方を示しています[4]。
  2. 事故の入口を一つに絞ります。三つを同時に投げると、混乱だけが残ります。最初の90分は一つに絞り、途中で新しい情報を小分けに提示します。CISAのCTEPには、演習計画、進行役、参加者の振り返り、事後報告のひな型が用意されています[6]。
  3. 90分を、検知、封じ込め、説明、復旧の順で進めます。以下は、編集部による進行案です。各段階の判断と振り返りまでを、一つの枠に収めます。
  4. 点数をつけず、詰まった箇所を改善台帳へ移します。見るのは知識量ではなく、どの情報を根拠に誰が判断したかという記録です。
  5. 責任者と期限を決め、手順を直した後に再演します。同じ論点を、別の想定で再演します。

手順3の90分は、次のとおり進めます。

開始時に示すのは、「顧客から、AIが引用した資料が見つからないと連絡があった」という一報だけです。参加者は、誰が事故対応を開始し、出力と送信履歴をどこから取るかを答えます。

正解を当てる試験ではありません。現在の手順で、必要な事実へ辿り着けるかを見る時間です。

20分後に、「同じ指示文のひな型を使った回答が47件あり、うち12件が外部送信済み」と追加します。ここでは、利用停止の範囲を決めます。AI機能を全面停止するのか、該当ひな型だけを止めるのか、顧客対応を人手へ切り替えるのかです。停止の判断者と実行者が別なら、連絡が届くまでの時間も記録します。

次に、「入力文書へ個人情報が含まれ、提供事業者の記録への保存可否が未確認」と伝えます。個人情報、契約、セキュリティの担当が、何を確認しないと報告要否を決められないかを挙げます。

最後に、再開条件を決めます。指示文を直した、という説明だけでは足りません。誤答を再現する試験、送信前確認、影響を受けた47件の再確認、再発監視が必要です。

演習後は、参加者の発言を点数化するより、詰まった箇所を改善台帳へ移します。たとえば、次のような詰まりです。

どれも計画の穴です。NIST SP 800-84は、机上演習を、計画が緊急時に実行可能か確かめる討議型の手段と位置づけます[2]。

評価表には、事故対応開始までの時間、影響対象を数えられたか、停止判断者へ届いたかを残します。対外文へ未確認事項を混ぜなかったか、改善項目に責任者と期限が付いたかも確認します。

生成AI事故の机上演習で、うまくいかない例にはどんなものがありますか?

三つの事故を同時に投げる、役割がそろわない、改善が意識の話で終わる、防御機能の証明と考える、が典型です。

90分が終わっても、研修は完了しません。見つかった穴が閉じたときに終わります。

演習の参加者は、それぞれ何を担いますか?

業務、AI運用、セキュリティ、法務、広報、最終責任者の6つの役割が、それぞれ別の判断を持ち寄ります。

役割演習で担うこと
業務責任者影響を受ける顧客・業務を示す
AI運用担当使用したモデル、指示文、検索拡張生成、外部機能の記録を持ち寄る
情報セキュリティ担当漏えい・侵害の範囲を調べる
法務・個人情報担当報告、通知、契約上の義務を確認する
広報・顧客対応説明文を作る。未確認情報を断定しない
最終責任者停止と再開を決める

次の一歩は何から始めればよいですか?

誤回答、情報漏えい、誤実行のうち一つを選び、架空の案件で90分の演習を1回行うことから始めます。

  1. 事故の入口を一つ選び、架空の案件と模擬記録を用意します。
  2. 6つの役割の参加者を決め、90分の枠を取ります。
  3. 演習後に改善台帳をつくり、責任者と期限を決めます。

演習の設計や進行は、TechWorkerが一緒に整理します。ご相談ください。

出典と確認範囲

資料確認日:2026年10月6日。本文中の手順例は編集部の提案で、導入効果の実測値ではありません。

古野光太朗
古野光太朗 / 株式会社TechWorker 代表取締役 CEO兼CTO

上場企業を含む45社・2,500名の生成AI導入・研修支援で得た実務知をもとに、導入・運用・顧客理解を扱っています。この実績はTechWorkerの生成AI支援実績であり、個別製品の導入実績を示すものではありません。

生成AI事故対応の机上演習を設計する

自社の利用環境と連絡体制に合わせ、事故想定、追加情報、評価表、改善台帳を設計します。

生成AI研修を相談する
← AI研修・導入ラボの記事一覧に戻る