Conflict Check

士業事務所の生成AIで利益相反の見落としを減らす|受任前チェックを候補抽出と専門判断に分ける【2026】

士業事務所が生成AIで利益相反を点検するとき、氏名・法人名の候補抽出と、受任可否・情報遮断・同意の専門判断を混同しない実務を解説します。

古野光太朗古野光太朗·2026.09.15·一次情報 7件
相談情報からAIが表記ゆれと関係者の候補を抽出し、原簿・所内規程・判断者が確認して受任記録へ進む。AIは受任を直接決めない図

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受任前の確認で怖いのは、同じ相手を別法人名・旧社名・担当者名で見落とすことです。生成AIは、相談メモから当事者、関係会社、相手方候補、過去案件との表記ゆれを拾う補助には使えます。しかし、似た名前があるから受任不可なのか、同意で進められるのか、情報遮断が必要なのかは、AIに決めさせられません。

結論は、AIには候補の抽出だけを任せ、受任可否は資格者または所内の責任者が、原資料・職業規範・契約を確認して決めることです。検索結果を「相反あり/なし」と表示する設計ではなく、「確認が必要な関係」として返し、判断と理由を案件記録へ残します。

1. 先に「照合する対象」を固定する

AIへ渡す前に、受任前チェックで照合する範囲を一枚にします。少なくとも、新規相談者、依頼対象、相手方、関係会社、役員・主要関係者、過去・現在の依頼者、案件の種類、案件期間を、所内の原簿で定義します。会社名だけの一致では足りず、持株会社・旧称・略称・担当者名も候補になるためです。

ここで重要なのは、AIの回答を検索の正本にしないことです。正本は、受任記録、委任契約、案件台帳など、更新責任者と版が分かる所内記録に置きます。AIは新規相談文から表記候補を増やし、原簿のどこを確認すべきかを示す役です。原簿にない事実を補ってはいけません。

弁護士法には受任に関する制限があり、弁護士職務基本規程も、過去に関与した相手方との関係などを含む受任制限を定めています。資格、事件類型、所属組織、個別契約で判断は変わります。税理士、社労士、行政書士などに、弁護士の規程をそのまま当てはめることはできません。

2. AIの出力は「候補・根拠・未確定」に分ける

出力は次の三段に限定します。

  1. 候補:相談文に現れた固有名詞、別表記、関係者、対象案件。
  2. 根拠:候補を出した相談文の該当箇所と、所内原簿の照合先。
  3. 未確定:同名異人・同名法人の可能性、関係の継続性、案件の関連性など、人が確認しなければ埋まらない点。

「A社に似ているから相反」といった結論ラベルは出させません。AIが推測した関係は、原資料の記載と分けて表示します。米国ABAのモデル規則も、現在の依頼者との直接の対立だけでなく、他の依頼者・元依頼者等への責任で職務が実質的に制限される重大なリスクを論点にしています。ただしこれは米国のモデル規則で、日本の受任可否を決める法令・規程ではありません。

候補がゼロでも「相反なし」と表示しないことも大切です。未入力の別名、原簿の更新遅れ、検索条件の漏れがあり得るためです。「該当候補なし(照合範囲:○○)」と範囲を明示し、最終確認者が記録を確認した後にだけ受任工程へ進めます。ゼロ件を結論に変えない設計は、AIを使わない確認にも有効です。

3. ヒット後に「誰が、何を、いつ判断したか」を残す

候補が出たら、担当者は原簿、委任関係、案件資料、必要なら責任者を確認し、受任、保留、辞退、追加同意の要否、情報遮断の要否を判断します。判断理由は、AIの回答文ではなく、確認した原資料と適用した所内ルールに結び付けます。

米国ABAの注釈は、事務所の規模・業務に応じた合理的な確認手続を採るべきだと説明します。日本に直接適用される義務ではありませんが、「AIで発見した」と「確認手続を終えた」を分離する参考になります。メタデータの抽出・照合・承認の三工程を分けると、候補の取りこぼしと、AIによる誤った確定を同時に減らせます。

4. 個人情報を広げず、小さく検証する

相談全文を外部サービスへ渡す必要はありません。照合に必要な項目を最小化し、機微な事情や証拠本文は原簿側に残します。個人情報保護委員会は、個人データを含むプロンプトを、提供者が応答以外の目的でも扱う場合には個人情報保護法に抵触する可能性があると注意喚起しています。利用サービスの保存・学習・委託の条件を、導入前に確認してください。

初回は、閉鎖済みで匿名化できる案件を使い、人の既存判断とAIの候補抽出を比較します。見るのはAIの「正解率」だけではなく、候補漏れ、同名誤検知、根拠箇所の誤表示、判断者が確認に要した時間です。重大な候補漏れ、根拠のない関係推測、承認なしの対外操作が出たら、対象を広げず停止します。

評価記録には、AIが拾えなかった別名と、人が追加した照合条件も残します。次回の候補抽出を改善する材料にはしますが、過去の判断結果そのものを正解ラベルとして無条件に学習させません。案件の背景や規程が変われば、同じ名前でも判断が変わり得るためです。改定した抽出条件は、適用開始日と確認者を明示して再試験します。

生成AIは、利益相反の判断を自動化する免許ではありません。表記ゆれを拾い、確認の入口を整える道具です。受任前チェックを、資格・事務所規程・案件台帳に合わせて設計したい方は、受任前チェックの設計を相談するをご利用ください。

一次情報と確認範囲

確認日:2026年9月15日。製品仕様・制度は更新されるため、導入時はリンク先の最新版を再確認してください。海外の制度・職業規範は日本へ直接適用せず、相違点と限界を本文に明記しています。

  1. 弁護士法は受任に関する制限を定める
  2. 弁護士職務基本規程は、過去に関与した相手方との関係などを含む受任制限を定める
  3. 個人データを含むプロンプトを、提供者が応答以外の目的でも扱う場合、本人同意がなければ法に抵触する可能性がある
  4. 日本のAI事業者ガイドライン第1.2版は、利用者を含むAIガバナンスの最新版として公開されている
  5. ABAモデル規則1.7は、現在の依頼者との直接の対立又は職務が実質的に制限される重大なリスクを利益相反として扱う
  6. ABAの注釈は、事務所の規模・業務に応じた合理的な利益相反確認手続を求める
  7. NIST AI RMF 1.0は、AIを設計・開発・導入・利用する組織のリスク管理を支援する任意の枠組みである
古野光太朗
古野光太朗 / 株式会社TechWorker 代表取締役 CEO兼CTO

上場企業を含む37社・2,500名の生成AI導入・研修支援で得た実務知をもとに、導入・運用・顧客理解を扱っています。この実績はTechWorkerの生成AI支援実績であり、個別製品の導入実績を示すものではありません。

受任前チェックを安全に設計する

AIの候補抽出と資格者・責任者の専門判断を分離し、原資料と理由を案件記録へ残します。

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