士業事務所が文書の下書きや論点整理へ生成AIを使うとき、内部規程だけでなく、顧問先へ何を説明するかが問題になります。「AIを使っています」とだけ伝えても、どの情報を入力し、誰が確認し、外部サービスがどう扱うかは分かりません。一方で、すべての技術仕様を長く並べても理解されにくくなります。
説明の目的は免責ではなく、顧問先がデータの扱いと人間の責任範囲を理解し、必要な選択をできる状態を作ることです。
まず利用場面を限定する
説明文を作る前に、事務所内の利用を三つに分けます。
- 公開情報の要約や一般的な論点整理
- 顧問先情報を匿名化・最小化して使う下書き
- 個人データ、機密情報、案件固有資料を扱う処理
三つ目は、契約、守秘義務、個人情報、サービス提供者の利用条件を確認し、必要な承認なしに始めません。利用場面を分類しないまま一枚の同意書で済ませると、低リスクの補助利用と高リスク処理が混ざります。
顧問先へ伝える5項目
1. 何に使うか
「生成AIを業務効率化に使う」ではなく、文書の初稿、公開情報の要約、チェックリスト作成など、対象作業を示します。最終判断や専門家としての助言をAIへ委ねないことも明記します。
2. 何を入力しないか
氏名、マイナンバー、健康情報、未公表の経営情報、契約上の秘密など、禁止情報を具体化します。匿名化しても再識別できる組み合わせがあるため、「名前を消せば安全」とはしません。
3. 外部サービスの扱い
サービス名を示すだけでなく、入力が学習へ使われるか、保存期間、処理地域、再委託、管理機能を確認した上で、顧問先の情報を扱う範囲を説明します。設定や契約プランで条件が変わる場合、その前提を記録します。
4. 人間が確認する範囲
生成物は担当者が一次確認し、必要に応じて有資格者が法令、事実、計算、期限を確認します。AIが引用した条文や判例は原典へ戻ります。誤りが見つかったときの修正責任を「AI」に置きません。
5. 利用しない選択と問い合わせ
案件によって生成AI利用を望まない場合の連絡方法、代替手順、追加費用や納期への影響を事前に決めます。形式的な選択肢ではなく、実際に運用可能な代替を用意します。
個人データの入力は提供条件まで確認する
個人情報保護委員会は、個人データを生成AIサービスへ入力し、提供者が応答生成以外の目的で扱う場合、本人同意のない第三者提供に当たり得ると注意喚起しています。したがって、単に「企業向けプランだから安全」とせず、契約、設定、学習利用、保存、再委託を案件ごとに確認します。
経済産業省等のAI事業者ガイドラインは、AI利用者にもリスクを理解し、適正利用し、関係者へ必要な情報を提供する考え方を示しています。ガイドラインを読んだこと自体を免責にせず、利用場面、責任者、確認手順、インシデント対応へ落とします。
短い説明文のたたき台
当事務所では、公開情報の要約や文書の初稿作成など一部の補助作業に生成AIを利用する場合があります。案件固有情報を扱う場合は、入力情報を必要最小限とし、利用サービスの保存・学習条件を確認します。生成物は担当者および必要に応じて有資格者が原典、事実、計算、期限を確認し、最終的な助言と成果物の責任は当事務所が負います。利用を希望されない場合は担当者へお知らせください。
この文面は契約や個人情報の状況に合わせて修正する出発点です。利用規約、委託契約、プライバシー通知と矛盾しないかを確認します。
海外の一次情報と適用限界
米国法曹協会のFormal Opinion 512は、生成AIを利用しても能力、守秘、顧客とのコミュニケーションに関する職業上の責任が残ると示しています。シンガポール法務省も、法務分野の生成AIガイドで処理・保存と秘密保持のリスクを扱っています。これは日本の士業へそのまま適用される規則ではありませんが、利用範囲と最終確認者を顧客説明へ落とす参考になります。説明だけで適法性や正確性が担保されるわけではなく、サービス審査、入力制限、人手確認を実装と一致させる必要があります。運用例として、顧問先がAI利用を希望しない場合の連絡先と担当者への引継ぎ方法を決めます。説明文を更新した日付、対象業務、サービス変更の有無も記録し、実際には提供できない選択肢を説明文へ書かないようにします。ひな型の採用前には、所属する職業団体の規程と個別契約に矛盾しないかを確認してください。
士業事務所のAI運用を整えたい方へ
TechWorkerでは、士業事務所の利用場面棚卸し、禁止情報、サービス審査、顧問先説明、人手確認、ログを一つの運用へまとめます。抽象的な規程だけで終わらず、日々の案件で判断できるチェック表まで設計します。
下書きでの確認工程は士業の書面・文書作成に生成AIを使う、相談業務の境界は士業の相談対応・調査に生成AIを使うも参照してください。
一次情報と確認範囲
確認日:2026年9月3日。製品仕様・制度は更新されるため、導入時はリンク先の最新版を再確認してください。海外の制度・職業規範は日本へ直接適用せず、相違点と限界を本文に明記しています。
